
ヤマハが世に送り出した画期的な3輪スクーター、トリシティ125。
その一方で、「なぜ3輪なのにバランスを崩して立ちごけしてしまうのか?」「そもそも、自力で自立しないのか?」「倒れないは間違い?」といった疑問の声が、特にバイク初心者や購入を考えている方々から多く聞かれます。
この記事では、トリシティ125が3輪でありながら立ちごけしてしまう具体的な理由を、その独自の仕組みから徹底的に掘り下げて解説します。
さらに、混同されがちな**「安定して走れること」と「自立しないこと」**の違いをはっきりさせ、トリシティ125が自立できない構造的な背景を詳しく説明します。
そして、最も大切なこととして、転倒のリスクをできるだけ減らし、トリシティ125を安全に楽しむための実践的な対策を、二級二輪整備士の視点から解説していきます。
■この記事でわかること
- なぜトリシティ125は3輪でも立ちゴケするのか
- 立ちゴケ対策はどうすればいいのか
- トリシティ125は自立しない?できない?
- トリシティ125の「倒れない」はガセネタだった?
- 結論のまとめ:トリシティ125がこけないようにするためには
なぜトリシティ125は3輪でも立ちゴケするのか?

「3輪だから油断しても大丈夫!」「絶対に転ぶことはない!」――これは、トリシティ125のような3輪バイクに対して抱かれがちな思い込みです。
確かに、地面に接する面積が広い分、通常のバイクよりも安定して走れます。
しかし、トリシティ125は魔法の乗り物ではありません。特定の状況下では、残念ながら転倒のリスクが存在します。その一番の理由を、より深く掘り下げていきましょう。
ヤマハ独自の車体傾斜(リーン)とパラレルリンクの注意点

トリシティ125の心臓部とも言えるのが、左右の前輪を支える「パラレルリンク機構」です。
この複雑な仕組みにより、トリシティ125は通常のバイクと同じように、乗り手の意思と体重移動によって車体を傾けながら曲がる「車体傾斜(リーン)」という動きを可能にしています。
出典ヤマハ公式
この車体傾斜(リーン)機構こそが、トリシティ125が独特の軽快な感覚と、路面にしっかりと追従する力を高め、安定したカーブを曲がる性能を発揮する源なのです。
しかし、この車体傾斜(リーン)機構は、止まっている時やごくゆっくり走っている時には、乗り手自身がバランスを取る必要性を生み出します。
通常のバイクであれば、ある程度の速度が出ていれば、車輪が回ることでまっすぐ立とうとする力が働きますが、速度が遅い時には常に乗り手が細かく調整し、バランスを保っています。
トリシティ125も同じで、車体傾斜(リーン)機構が働くことで、車体は常に左右に傾く可能性を秘めています。
止まっている時や、歩く程度の速さで動いている時、あるいは取り回しの際には、乗り手がしっかりと車体を支え、傾きを抑えなければ、最終的にはバランスを失い転んでしまうのです。
タイヤと路面が接する状態での落とし穴
3輪であるトリシティ125は、前輪が2つ、後輪が1つの合計3つのタイヤが路面に触れています。
これは、単純に計算すれば通常のバイクよりも広い面積で路面に接しているため、乾いた路面では高いグリップ力(路面を掴む力)を発揮します。
しかし、路面の状態が悪くなった場合、この有利な点が必ずしも絶対的なものとは限りません。
例えば、雨の日の濡れた路面や、凍った路面、砂利や落ち葉が散らばった路面など、滑りやすい状況では、3つのタイヤ全てが同時にグリップを失う可能性があります。
特に、速度が遅い時や止まっている時には、わずかな路面の変化や傾斜が、予期せぬ滑りを引き起こし、バランスを崩す原因となります。
経験豊富な乗り手であれば、このような状況ではより慎重な操作を心がけますが、3輪であるという安心感から油断してしまうと、思いがけない転倒に見舞われることがあるのです。
具体的な例として、雨の日のマンホールや白い線の標示の上は非常に滑りやすく、ゆっくりと通過する際にバランスを崩しやすい場所です。
また、砂利道では、タイヤが砂利に乗って一瞬グリップを失うことがあり、これも転倒の原因となり得ます。
見過ごせない!バイク全体の重さと重心の微妙なバランス
トリシティ125は、125ccのスクーターとしてはやや重い車体を持っています。
これは、頑丈なフレームや、複雑な前輪が二つある仕組みによる部品の増加が主な理由です。また、バッテリーや燃料タンクの位置などによって、バイク全体の重心も通常のスクーターとは異なる特徴を持っています。
止まっている時やごくゆっくり走っている時には、この車体の重さと重心の位置が、乗り手のバランス感覚に微妙な影響を与えます。
例えば、傾斜のある場所で止まった場合、通常のバイクであれば後輪ブレーキを強くかけ、ハンドルを固定するなどの対策で比較的安定しますが、トリシティ125では、前輪が2つある分、どちらかのタイヤが滑ると車体が不安定になりやすい傾向があります。
また、バイクを押して動かす際にも、その重さからバランスを崩しやすく、特にかかとが地面につきにくいと感じる乗り手は注意が必要です。
乗り手の経験と過信や技術不足と油断が生むミス
通常のバイクと同じように、トリシティ125を安全に運転するには、ある程度の慣れと経験が必要です。
特に、トリシティ125独特の車体傾斜(リーン)機構を活かしたカーブの曲がり方や、ゆっくり走る時の繊細なバランスの取り方は、練習によって上達するものです。
トリシティ125に初めて乗る方や、バイクの運転経験が少ない方は、その独特な操作感に戸惑うことがあるかもしれません。
例えば、通常のバイクの感覚で急なハンドル操作を行うと、前輪が予期せぬ動きをし、バランスを崩してしまうことがあります。また、「3輪だから大丈夫だろう」という思い込みが、注意散漫な運転や無理な操作につながり、結果として転倒を引き起こすことも少なくありません。
経験豊富な乗り手であっても、疲労がたまっている時や、体調が良くない時には、集中力が落ち、バランスを崩しやすくなります。常に自分の体調と運転技術を過信しない謙虚な姿勢が、転倒を防ぐ上で大切な要素となります。
立ちゴケ対策はどうすればいいのか?

トリシティ125での転倒は、適切な対策を取ることでそのリスクを大幅に減らすことができます。ここでは、具体的な対策方法をより実践的な視点からご紹介します。
運転技術の基本を理解しておく
トリシティ125を安全に乗りこなすための土台となるのが、確かな運転技術です。焦らず、段階的に運転の腕を上げていきましょう。
■ゆっくり走る時のバランスの極意
広くて安全な場所(自動車教習所の練習コースや、交通量の少ない駐車場など)で、まずは足を地面につけずに、ごくゆっくりとまっすぐ走る練習から始めましょう。
視線は常に進行方向の遠くを見るように心がけ、膝でバイクを挟むように意識することで、バイクとの一体感が高まります。次に、より小さな円を描くように曲がったり、数字の8の字を書くように走ったりする練習をすることで、ゆっくり走る時のバランス感覚とバイクを操る能力を養います。
■スムーズな発進と停止
発進する時は、アクセルを急に開けすぎず、滑らかに動き出すことを意識します。止まる時は、前後のブレーキをバランス良く使い、急ブレーキにならないように注意しましょう。
特にゆっくり走っている状態から止まる時は、車体がふらつきやすいので、しっかりと膝でバイクを安定させ、両足を確実に地面につけることが大切です。
■車体傾斜(リーン)を体で覚える
カーブの手前では十分に速度を落とし、カーブに入ったらスムーズに車体を傾け始めます。車体を傾ける際には、ハンドルに力を入れすぎず、体の中心を使ってバイクを傾けるイメージを持つと良いでしょう。
視線は常にカーブの出口に向けることが、スムーズにカーブを曲がる秘訣です。最初は緩やかなカーブから始め、徐々に車体を深く傾ける練習を繰り返しましょう。
■坂道での安定した発進と停止
坂道での発進は、平地よりもバランスを取るのが難しいため、しっかりとブレーキをかけた状態でエンジンをかけ、ゆっくりとアクセルを開けながらブレーキを離す練習を繰り返しましょう。
止まる時も、後輪ブレーキを強めにかけ、必要であれば前輪ブレーキも一緒に使って、バイクが動かないようにしっかりと固定します。
車両の特性に合わせた運転
トリシティ125は、通常のバイクとは異なる特性を持っています。その特性を理解した上で運転することが、転倒を防ぐことにつながります。
身を守るための適切な装備
万が一、転倒してしまった際のけがを最小限に抑えるためには、適切な装備を身につけることが欠かせません。
安全基準を満たしたヘルメットの着用: 法律で定められているのはもちろんのこと、安全性の高いヘルメットを、自分の頭の大きさに合ったものを正しくかぶりましょう。顔全体を保護できるフルフェイスタイプであれば、より安全性が高まります。
■保護具付きのジャケットとズボン
肩、ひじ、背中、膝などに保護具が内蔵されたバイク用ジャケットやズボンを着用することで、転倒時の衝撃を大幅に減らすことができます。素材も、摩擦に強いものを選ぶと良いでしょう。
■手袋(グローブ)
手は、転倒した時に一番最初に地面に触れやすいため、丈夫な手袋を着用することで、擦り傷や骨折のリスクを減らすことができます。革製や合成皮革製のものがおすすめです。
■バイク用ブーツまたは丈夫な靴
足首をしっかりと保護できるバイク用ブーツや、丈夫な革製の靴などを着用することで、足首のねんざや骨折を防ぐことができます。靴底が滑りにくいものを選ぶことも重要です。
トリシティ125は自立しない?できない?

まず、頭に入れておかなければならないことは、トリシティ125は乗り手がバランスを取らない限り、完全に自分で立つことはできません。
この点を正しく理解することが、トリシティ125との安全な付き合いの第一歩となります。その根本的な理由は、先ほども説明した車体傾斜(リーン)機構にあります。
この仕組みは、走っている間に車体が積極的に傾くことを前提とした設計であり、止まっている時に車体をまっすぐに固定するためのロック機構は搭載されていません。
あくまで乗り手がハンドルと体重移動によってバランスを取り続ける必要があるのです。
市場には、止まっている時に電動や機械の力で車体を固定し、自立させることができる3輪バイクやトライクも存在します。しかし、トリシティ125は、通常のバイクに近い自然な操作感と、3輪ならではの安定性を両立させるという独自の考え方に基づいて開発されました。
そのため、自立する機能はあえて採用されなかったのです。
トリシティ125の「倒れない」はガセネタだった?

残念ながら、どんな改造を施しても、トリシティ125を乗り手の操作なしに自力で立たせることは非常に難しいです。
もしそのような改造を行った場合、車体傾斜(リーン)機構が正常に機能しなくなる可能性があり、走行性能を著しく損なうだけでなく、安全上の危険も大幅に高まります。
インターネット上や一部のメディアでは、「トリシティは3輪だから勝手に倒れない」といった誤解を招くような情報も見られますが、これは全くの間違いです!
久しぶりにバイクの乗るという新唯さんのために、ヤマハさんから3輪バイク「トリシティ125」をお借りしたのでござる。
これなら倒れない(自立する)と思っていたのですが、倒れるのですねwwにしても安定感が凄かった!https://t.co/KFH0X43qlq pic.twitter.com/tI9cvgA0V1
— 栗原祥光 (@yosh_kurihara) July 24, 2022
走っている間は、タイヤが回ることによる力や、カーブを曲がる時の遠心力などによってある程度の安定性が保たれますが、速度が落ちたり完全に止まったりすると、これらの安定させる力は失われます。
その結果、乗り手がバランスを保たなければ、車体は傾き、最終的には倒れてしまいます。
トリシティ125は、まるで通常のバイクを操るかのように積極的にバランスを操作する楽しさを味わう乗り物であり、勝手に安定して走る乗り物ではないということを、改めて強調しておきたいと思います。
結論のまとめ:トリシティ125がこけないようにするためには?

トリシティ125は、その革新的な3輪の仕組みにより、通常のバイクにはない特別な走行性能と安定性を提供してくれる魅力的な乗り物です。
しかし、「3輪だから絶対に倒れない」という過信は禁物です!
車体傾斜(リーン)機構の特徴、路面の状態、バイクの重さのバランス、そして乗り手自身の運転技術と注意力が、転倒のリスクを左右する大切な要素となります。
トリシティ125で安全で快適なバイク生活を送るためには、以下の点を常に心がけることが大切です。
- 運転技術の基本をしっかりと身につけ、常に上達しようという気持ちを持つこと
- トリシティ125の特徴を理解し、状況に合わせた適切な運転を心がけること
- 万が一の事態に備え、適切な装備を常に身につけること
- 「3輪だから大丈夫」という油断を捨て、常に慎重な運転を心がけること
これらの点を守ることで、トリシティ125でのバイク体験は、より安全で、より楽しいものとなるでしょう。
トリシティ125は、積極的に操る楽しさを与えてくれるバイクです。その独自の魅力を存分に味わうために、正しい知識と運転技術を身につけ、安全な運転を楽しんでください。

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二級二輪整備士:大型二輪免許取得:愛車Lead125
125cc専門の情報発信者。各車種のスペックや走行性能、燃費比較からメンテナンスまで知識ゼロから詳しくなれるよう、すべてを“教科書レベル”で徹底解説しています!
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