
もしあなたが、PCXを通勤や通学、あるいは週末のツーリングで快適に使いたいと考えているのであれば、安易なローダウンは絶対にやめておくべきだ。
なぜなら、PCXが本来持っている抜群の走行性能が、ローダウンによって完全に破壊されてしまう可能性が非常に高いから。
つまりは、デメリットが多くなるリスクと、乗り心地が悪化するリスクの両方が存在してしまうだろう。
このコンテンツでは、PCXのローダウンを検討しているオーナーに向けて、なぜそれがダメなのか?、具体的にどのようなデメリットが発生するのかを、情け容赦なく、しかし愛を持ってプロの二級二輪整備士である私が解説していきます!
■この記事でわかること
- 【結論】PCXのローダウンは基本的にNGな理由
- PCXをローダウンする最大のデメリット5選
- 【注意!】安いローダウンサスは地雷パーツだ
- サイドスタンドも必ずショートスタンドに交換が必要になる
- 乗り心地の悪化は想定内と割り切れるか?
- 最後に統括
【結論】PCXのローダウンは基本的にNGな理由

結論から言うと、日常の足としてPCXを使用しているのであれば、ローダウンは百害あって一利なしと言っても過言ではない。ここではその根幹となる理由を3つの視点から解説します。
純正のバランスが一気に崩れる

メーカーのエンジニアたちは、PCXのフレーム剛性、サスペンションのストローク量、キャスター角、タイヤのグリップ力など、あらゆる要素を計算し尽くしてあの車高を設定しています。
それは単なるデザインではなく、どんな路面状況でも安全に、かつ快適に走るための黄金比なのです。
ローダウンをするということは、その完成された黄金比を素人が崩す行為に他なりません。
サスペンションのストロークが短くなれば、当然ながら衝撃吸収能力は物理的に低下しますし、車体の姿勢が変わればハンドリングの特性も意図しない方向へ変化してしまいます。
ローダウンと引き換えに失う快適性
ぶっちゃけ、ローダウンをして得られるメリットは、極論すれば「停車時の見た目のカッコよさ」と「足つき性の向上」という二点のみです。
しかし、その代償として失うのは、走行中のすべての瞬間に感じる快適性です!


PCXは本来、クラスを超えた上質な乗り心地が売りのスクーターですが、ローダウン車はその美点をすべて捨て去ることになります。
段差を乗り越えるたびに身体に走る衝撃、カーブを曲がるたびに感じる不安定さ、底付きを気にして走る精神的なストレス。
ローダウン後に後悔したオーナーが多い事実
ネットオークションやフリマアプリを見てみると、使用期間の短いローダウンサスペンションや、ローダウン済みの車両が数多く出品されていることに気づくはずです。
これは、
というオーナーたちの無言の叫びでもあります。
最近、アドレスV125からPCXjf84に乗り換えまして足付き良くするために前後ローダウンにしました。が!サスが固すぎて突き上げ?が酷くちょっとしたギャップでもサスのショックが効いてないような感じでガツンと体に受けます。
出典価格.com
最初は我慢して乗っていても、毎日の通勤で腰へのダメージが蓄積し、結局は高い工賃を払って純正に戻すというケースが後を絶ちません。
PCXをローダウンする最大のデメリット5選

では、具体的にどのような不具合や不満が生じるのか?、PCXをローダウンした際に直面する5つの大きなデメリットについて、詳細に解説していきます。
これらは物理的な構造変更をした場合に必然的に起こり得る現象です。
乗り心地の悪化(サスが機能しなくなる)

純正のサスペンションは、路面の凹凸を吸収するために十分な収縮幅、つまりストローク量が確保されています。
しかし、車高を上げるということは、このストローク量を強制的に減らすことを意味します。
サスペンションが動ける範囲が狭くなれば、当然ながら小さな段差でも衝撃を吸収しきれなくなります。
本来ならフワッとやり過ごせたはずのマンホールの段差やアスファルトの継ぎ目で、ガツンという硬質な衝撃が車体を突き上げることになります。
すぐに車体やセンタースタンドを擦る
PCXはスクーターの中でもホイールベースが長く、車高を下げると車体腹下のクリアランスが極端に少なくなります。
直線を走っている分には問題なくても、交差点を曲がる際やワインディングロードで車体を傾けた瞬間、ガリガリッという不快な金属音と共にセンタースタンドやアンダーカウルが地面と接触します。
これは単にパーツが傷つくだけでなく、接触した部分が支点となってタイヤが浮き上がり、最悪の場合は転倒につながる非常に危険な状態です。
常に「擦るかもしれない・・」という恐怖心を持って走らなければならないため、気持ちよくカーブを曲がることなど到底できなくなります。
売却時の査定額が下がる
カスタムしたバイクの方が高く売れると思っているオーナーもいるかもしれませんが、一般的に中古車市場ではフルノーマルの車両が最も高く評価されます。

特に足回りのカスタムは、乗り心地の悪化やフレームへのダメージが懸念されるため、買取業者からは敬遠されがちです。
次に乗る人がノーマルに戻すための部品代や工賃が差し引かれて査定されるため、せっかく高いお金を出してパーツを組み込んだのに、売る時には逆にマイナス査定になるという悲しい結末が待っています。
路面の段差で突き上げが腰に直撃する


サスペンションのストロークが足りなくなると、いわゆる底付きという現象が起きます。これはバネが縮みきってしまい、それ以上衝撃を吸収できない状態です。
この時、路面からの衝撃はサスペンションを介さず、フレームとシートを通じてダイレクトにライダーの身体へ伝わります。
特に腰への負担は甚大で、毎日の通勤で往復一時間も乗っていれば、慢性的な腰痛に悩まされることになるでしょう。
センタースタンドが掛けにくくなる
車高が下がると、地面と車体の距離が縮まるため、センタースタンドを立てる際のテコの原理が働きにくくなります。
純正状態なら軽く踏み込むだけで上がったスタンドが、ローダウン車では車体を大きく持ち上げるような力が必要になり、非常に重く感じられます。
また、ローダウン量によってはセンタースタンド自体を取り外さなければならないこともあり、その場合はメンテナンス性が著しく低下します。
【注意!】安いローダウンサスは地雷パーツだ

ローダウンのリスクを理解した上でも、予算を抑えたいがために安価なパーツに手を出そうとしているなら、それは完全に愚かだ。。
特にネット通販などで見かける、有名メーカー製ではない格安のローダウンサスペンションは、まさに地雷パーツの代表格です。
【安物買いの銭失い】安価なサスペンションのリスク

きちんとしたメーカーのローダウンサスは、短くなったストロークに合わせてダンパーの減衰力やバネレートを専用設計しています。
しかし、安価な製品の多くは、単に純正よりも短いバネを使っているだけか、あるいは見た目だけを似せた粗悪なダンパーを使用しています。
このようなサスペンションは、衝撃を吸収するどころか、一度縮んだバネの反動を抑えきれずにボヨンボヨンと跳ね続けたり、逆にガチガチに硬すぎて全く動かなかったりと、サスペンションとしての体を成していません。
これは乗り心地が悪いというレベルを超えて、走行安定性を損なう危険な状態です。
底付きによる車体ダメージのリスク

安物のサスペンションは適切なバンプラバーが装備されていないことも多く、大きな段差で激しく底付きした際に、衝撃がそのままサスペンションの取り付け部やフレームに伝わります。
最悪の場合、サスペンションマウントが曲がったり、フレームに亀裂が入ったりと、車両そのものの寿命を縮める深刻なダメージを与える可能性があります。
数千円をケチった結果、数十万円のバイクを廃車にしてしまう可能性すらあるのです。
フロントフォークの調整も同時にやらないと操縦性が悪化
安易なカスタムでやりがちなのが、後ろのサスペンションだけを短いものに変えて満足してしまうパターンです。
これでは車体が後ろ下がりになり、アメリカンバイクのようなキャスター角になってしまいます。
結果として、フロントタイヤの接地感が薄くなり、カーブで曲がろうとしても外側へ膨らんでしまうアンダーステア傾向が強まります。
サイドスタンドも必ずショートスタンドに交換が必要になる

車高を下げると、純正のサイドスタンドでは長さが余ってしまい、駐車時の車体が直立に近い状態になってしまいます。
この状態で駐車すると、わずかな傾斜や強風、あるいは誰かが軽く触れただけで反対側にバイクが倒れてしまいます。
ローダウンサスペンションとショートサイドスタンドは、必ずセットで交換するのが鉄則です。

ここをケチると、ある日突然愛車が倒れて傷だらけになっている姿を見ることになります。
乗り心地の悪化は想定内と割り切れるか?

精神的な準備として、乗り心地の悪化は想定内と割り切る覚悟を持つことが必要。
どれだけ高級なローダウンサスを入れたとしても、物理的なストローク量が減る以上、純正と同じ乗り心地を維持することは不可能です。

「純正よりは硬くなる・・」「大きな段差は避けて走る必要がある・・」ということを最初から理解し、それを受け入れる寛容さが求められます。
快適性を多少犠牲にしてでもスタイルや足つきを取る、というトレードオフの関係を納得した上でなければ、カスタム後に後悔することになります。
最後に統括

PCXというバイクは、125ccクラスのスクーターとしては異例なほど贅沢に作られた乗り物です。
その完成されたバランスは、日常の移動を単なる移動手段から、心地よい時間へと変えてくれる力を持っています。
ローダウンというカスタムは、その魔法のような快適性を自らの手で放棄する行為に他なりません。
特に毎日の通勤や通学でPCXを使っている方にとって、乗り心地の悪化は日々のストレスに直結します。
朝の出勤時に路面の衝撃で不快な思いをし、帰宅時に疲れた体へさらに追い打ちをかけるような振動を受けることは、想像以上に精神を消耗させます。
見た目のカッコよさは確かに魅力的ですが、バイクは走ってこその乗り物です。
飾っておくプラモデルではない!
もし足つきに不安があるなら、まずはローダウンシートや厚底ブーツの導入を検討してみよう。
それでもどうしても車高を下げたい場合は、信頼できるメーカーのキットを使い、ショートスタンドとセットで正しく組み込むこと。
そして、ある程度の乗り心地悪化は覚悟の上で行うこと。このリスク管理ができないのであれば、純正のまま乗るのが鉄則だ。
結局のところ、メーカーが何万キロものテスト走行を経て導き出したノーマルという設定こそが、最もバランスが取れていて、最も疲れず、最も長く愛せる仕様だ!
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