
街中では125ccの車体でありながら原付一種として登録された新基準原付を見かける機会が格段に増えてきた。
この新しいカテゴリーのバイクは、従来の50ccという排気量の壁を突き破り、原付免許という手軽な資格で125ccクラスの剛性や安定感を手に入れられるという点で、画期的な進歩と言えるだろう。
しかし、その一方でもともと125ccのポテンシャルがあるエンジンであるがゆえに、改造してリミッター解除してしまえば本来のパワー、つまり原付二種と同等の性能を取り戻せるのではないか?という誘惑的な考えです。
プロの二級二輪整備士として長年バイクの心臓部と向き合ってきた私の立場から言わせてもらうと、新基準原付をリミッター解除するプロセスは、それ相応なリスクがある!
このコンテンツでは、改造に潜む代償について、私の個人的な見解を交えて徹底的に解説していきたい。
■この記事でわかること
- そもそも新基準原付の出力制限リミッターの仕組みとは?
- 新基準原付のリミッターカット後に公道を走るのがヤバい理由
- 新基準原付で改造が車体に与える深刻なメカニカルトラブル
- 万が一の事故保険金が下りない
- 【結論】リミッター解除より小型二輪免許を取る方が100倍マシ
- 新基準原付の改造に関するよくある質問(Q&A)
- 最後に統括
そもそも新基準原付の出力制限リミッターの仕組みとは?

新基準原付を語る上で避けて通れないのが、4キロワットという出力の壁です。
これは従来の馬力に換算すると約5.4馬力であり、本来であれば10馬力前後を発揮できる125ccエンジンを半分近くの力に封印していることを意味します。
では、メーカーはこのパワーをどのようにして抑え込んでいるのか?
多くのバイクオーナーは、スイッチ一つやプログラムの書き換えだけで簡単に制限が解けると考えているようですが、現実はそれほど単純ではありません。メーカーは国からの厳しい認可を受けるために、素人細工では容易に突破できない重層的なガードを施しているのです。
ECUコンピューターによる制御がメイン

現代のバイクは、ECUと呼ばれる小さなコンピューターがエンジンのすべてを司っています。
新基準原付におけるパワー制限の主役もこのECUです。
具体的には、エンジンの回転数に応じて燃料を吹く量や、火花を飛ばすタイミングを緻密に調整し、どのような状況でも最高出力が4キロワットを超えないようにプログラムされています。
これはいわば、エンジンの頭脳に強力な抑制をかけている状態です。一部の海外製サブコンピューターなどを用いれば、この数値を書き換えることは技術的に不可能ではありませんが、最新のECUは高度な暗号化や不正アクセス検知機能を備えています。
一度でも正規ではない書き換えが行われれば、そのログは消去不能な形で記録され、メーカーの診断機に繋いだ瞬間にすべての不正が露呈するようになっています。
吸排気系や駆動系にも物理的な制限がある

整備士としての経験上、コンピューターだけでパワーを抑えるのは、実はエンジンにとってあまり効率的なことではありません。
そのため、多くのメーカーは物理的な制限も併用していると考えられます。例えば、空気を取り込むインテークパイプの径をあえて細くしたり、マフラー内部の構造を絞って排気の抜けを悪くしたりすることで、物理的にエンジンが吸い込める空気の量を制限しているのです。
これを解除しようと思えば、コンピューターだけでなく、高価な吸気パーツや排気パーツを丸ごと交換する必要があります。
メーカーが課した4kWという重み

この4キロワットという数字は、適当に決められたものではありません。
日本の道路環境において、原付免許という比較的容易に取得できる免許で扱える安全なパワーの限界値として、警察庁や国土交通省、そしてメーカーが長い年月をかけて議論し、導き出した結論です。
メーカーはこの境界線を1ミリでも超えないように、多額の開発費を投じてテストを繰り返しています。この境界線を個人の判断で踏み越えるということは、その車両の安全性そのものを全否定する行為に等しいのです。
新基準原付のリミッターカット後に公道を走るのがヤバい理由

次に、法的な観点からこの問題を考えてみよう。
多くのライダーが勘違いしているのは、自分のバイクをどう改造しようが個人の自由だという考え方です。
確かにサーキットなどのクローズドコースで走らせる分には自由かもしれませんが、一歩でも公道に出れば、そこは厳格なルールに支配された世界です。
新基準原付を改造して出力を上げた瞬間、そのバイクはあなたが登録した原付一種という乗り物ではなくなり、法的なアイデンティティを完全に失うことになります。
道路運送車両法違反!不正改造車の罰則対象

まず直面するのが、道路運送車両法違反です!
新基準原付は、4キロワット以下という条件を満たすことで型式認定を受けています。この出力を意図的に変更することは不正改造に該当し、警察による取り締まりの対象となります。
もし街頭検査や、事故後の調査でリミッター解除が発覚した場合、整備命令が出されるだけでなく、悪質な場合は懲役や高額な罰金が科せられることもあります。
また、不正改造を施した車両を公道で走らせること自体が犯罪であり、その事実はあなたの警察への記録として一生残ることになります。
免許区分が変わり無免許運転のリスクも!

これが最も深刻な法的リスクかもしれません。
あなたが原付免許、あるいは普通自動車免許に付帯する原付一種の権利でそのバイクに乗っている場合、リミッターを解除してパワーを上げたバイクを運転することは、法的には無免許運転とみなされる可能性が極めて高いのです。
なぜなら、そのバイクは性能上、原付二種(小型限定二輪免許以上が必要な区分)に該当してしまうからです。
無免許運転の罰則は非常に重く、一発で免許取り消しになるだけでなく、数年間は免許の再取得ができなくなる欠格期間が設けられます。
通勤や通学で車やバイクが欠かせない生活を送っている人にとって、これは社会的な死を意味すると言っても過言ではありません。
地方税法違反脱税の可能性も!
さらに細かい話をすれば、税金の問題も浮上します。原付一種と原付二種では、軽自動車税の金額が異なります。
わずかな差ではありますが、本来払うべき区分の税金を払わずに、低い税区分のまま高い性能のバイクを走らせることは、地方税法違反、つまり脱税行為に当たります。
自治体によっては、こうした不正改造車に対するチェックを厳格化しているところもあり、一度目を付けられれば遡って徴収されるだけでなく、重加算税を課されることもあります。
新基準原付で改造が車体に与える深刻なメカニカルトラブル

さて、法律の話から離れて、今度はバイクそのものの健康状態、つまりメカニカルなリスクについて解説していこう。
私はこれまで、無理な改造によってボロボロになったバイクを数え切れないほど見てきました。
新基準原付の改造は、これまでの50ccのボアアップなどとは次元の違う難しさとリスクがあります。
冷却性能不足によるオーバーヒートの危険性

新基準原付のエンジンは、先ほども述べた通り、4キロワットの出力を前提に熱設計がなされています。パワーを出すということは、それだけエンジン内部でガソリンを多く燃やし、大量の熱が発生することを意味します。
しかし、メーカーはこの制限されたパワーに合わせて、ラジエーターのサイズや冷却水の循環量、空冷ファンなどの性能を最適化しています。
リミッターを解除して無理やりフルパワーを出せば、冷却システムが追いつかなくなり、あっという間にエンジン温度が異常上昇します。
オーバーヒートを起こしたエンジンは、金属パーツが熱で歪み、最悪の場合はピストンがシリンダーに焼き付いて走行不能になります。
駆動系パーツの寿命が激減する

スクーターの場合、エンジンのパワーを後輪に伝えるVベルトやプーリー、クラッチといった駆動系パーツの存在も忘れてはいけません。
新基準原付に採用されている駆動系パーツは、4キロワットのトルクに耐えられるように設計されています。
ここに想定外のパワーを流し込めば、ベルトは異常に発熱して摩耗が早まり、最悪の場合は走行中にブチ切れます。
また、クラッチシューも滑りやすくなり、加速性能はかえって悪化することさえあります。整備士の視点から言えば、エンジンのパワーだけを上げても、それを受け止める足腰が伴っていなければ、それは単なる自壊へのカウントダウンに過ぎません。
保証が一切受けられなくなる
新車で購入したバイクには、通常数年間のメーカー保証が付いています。
しかし、ECUの書き換えやリミッター解除などの不正改造を行った形跡が一度でも見つかれば、その瞬間にすべての保証は失効します。
たとえ故障の原因が改造とは関係のない電装系の不具合であったとしても、メーカーは不正改造車に対して一切の責任を負いません。最新のバイクは電子制御の塊であり、部品一つ一つの単価も高額です。
万が一の事故保険金が下りない

バイクに乗る上で最も恐ろしいのは交通事故です。どれだけ自分が気をつけていても、不運な事故に巻き込まれることはあります。
そんな時のための保険ですが、新基準原付を改造していると、この最後の砦さえも崩れ去ることになります。
任意保険の告知義務違反と免責事項

バイク保険を契約する際、私たちは排気量や車種を正しく告知する義務があります。
原付一種として契約しているバイクが、実はリミッター解除によって原付二種相当の性能になっていた場合、これは重大な告知義務違反となります。
保険会社はプロの調査員を使い、事故車両のECUやパーツの状態を徹底的に調べます。
もし改造が発覚すれば、保険会社は契約を解除し、保険金の支払いを拒否する正当な権利を持ちます。相手に怪我をさせてしまった場合、数千万円、数億円という賠償金をすべて自分のポケットから支払わなければならなくなるのです。
ファミリーバイク特約の対象外になるケース
車の保険に付帯できる便利なファミリーバイク特約も同様です。この特約はあくまで「原付一種(または二種)」という正しい区分に基づいた車両を運転していることが前提です。
不正改造によって区分を逸脱したバイクは、法的には原付一種とは認められないため、特約の対象外となるリスクが非常に高いです。
【結論】リミッター解除より小型二輪免許を取る方が100倍マシ

ここまで厳しい現実を突きつけてきましたが、私の本当の願いは、バイクオーナーに安全に、そして心ゆくまでバイクを楽しんでもらいたいということです。
もし、あなたが新基準原付のパワーに不満を感じ、リミッターを解除したいと考えているのなら、整備士として、そして一人のライダーとして、断言できる解決策があります。
それは、教習所に行って小型限定二輪免許を取得し、本物の原付二種に乗ることです。
現在、小型二輪免許の取得は非常にスムーズになっています。普通自動車免許を持っている人なら、最短で2日から3日程度の教習を受け、卒業検定に合格するだけで、晴れて125ccのフルパワーモデルに乗ることができます。
改造費用と免許取得費用のコスパ比較

リミッター解除のために不正なパーツを買い込み、故障のリスクに怯えながら乗り続けるコストと、教習所に数万円払って免許を取るコスト。
どちらが賢い選択かは明白です。。
改造パーツ代や、万が一の故障時の修理代を考えれば、免許を取る方が圧倒的に安上がりで、かつ確実です。何より、自分の技術を向上させ、正しい知識を身につけることは、一生の財産になります。
30km制限と二段階右折から解放される

そして、免許を取得して原付二種として登録すれば、あの煩わしい時速30キロ制限や二段階右折の義務から解放されます。
道路の流れに乗って安全に走り、交差点でも車と同じように右折できる。この自由こそが、バイクという乗り物の真の魅力ではないか?
リミッター解除というグレーな行為で得られる微々たるパワーよりも、法的に認められた自由とパワーの方が、100倍価値があります。
新基準原付の改造に関するよくある質問(Q&A)

現場でお客様からよく聞かれる質問に対して、整備士としての本音でお答えします。
バレなければ大丈夫ではないか?
バレなければ大丈夫ではないか?という質問ですが、今の警察は非常に勉強しています。
新基準原付という新しいカテゴリーが登場したことで、取り締まり側も知識をアップデートしており、不自然な加速や排気音、最高速の出方には敏感になっています。
事故が起きてから後悔しても遅いのです!
外国製のパーツなら大丈夫か?
外国製のパーツなら大丈夫かという点についても、答えはノーです。
海外では規制が緩い国もありますが、それを日本に持ち込んで公道で使えば、それは立派な違法行為です。パーツが売られていることと、それを使って公道を走れることは別問題であることを理解しましょう。
中古車で改造済みの車体を買ってしまったらどうすればいい?
中古車で改造済みの車体を買ってしまったらどうすればいいか?という相談も増えています。
もし知らずに購入してしまった場合でも、公道を走ればあなたの責任になります。
すぐに信頼できる整備工場に持ち込み、ノーマルの状態(4キロワット以下)に戻してもらうか、構造変更の手続きを行って正しく原付二種として登録し直す必要があります。
最後に統括

新基準原付は、日本のバイク文化を守るために生まれた、知恵と技術の結晶です。時速30キロで、そして4キロワットという出力で走ることを前提に、すべてのパーツが最高のバランスで組み上げられています。
このバランスを崩すリミッター解除という行為は、メーカーが提供する安全と信頼を自ら投げ捨てる行為に他なりません。
プロの整備士として私があなたに伝えたいのは、バイクは正しく乗ってこそ最高に楽しいものだということです。
パワーが欲しければ、正攻法でステップアップしてください。その過程で学ぶ交通ルールや操縦技術は、あなたをより素晴らしいライダーへと成長させてくれます。
新基準原付という、この新しく快適な乗り物を、ぜひそのままの形で大切に可愛がってあげてください。
メーカーが意図した通りのマイルドな加速、静かなエンジン音、そして抜群の燃費性能。それらすべてを享受しながら、安全に街を駆け抜ける。
それこそが、新しいバイクライフの正解だと私は確信している!
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